【登山紀行 Vol.29】「試練と憧れ」剱岳 源次郎尾根をゆく

登山紀行

お盆期間の営業を終え、2泊3日で剱岳に登ってきました。
その圧倒的な存在感と山頂に至る道の険しさから「岩と雪の殿堂」とも称される剱岳。代表的なルートは標高差2,200mを駆け上がる早月尾根、または急峻な岩場が連続する別山尾根の2つが挙げられます。
過去に本で見た「源次郎尾根」という名前がずっと頭に残っていて、剱岳に登るならここから。という強いこだわりがありました。源次郎尾根は入門とはいえ北アルプスを代表するバリエーションルートの1つで、まさに私にとっての「試練と憧れ」でした。

実はこの山行は昨年の同時期にも計画していました。MARSでお世話になっている新名ガイドにロープワークを習い、ゲレンデクライミングや八ヶ岳のマルチに行き準備万端!と思いきや、昨年は妻の入院で結局中止に。今年こそは!と満を持して向かいました。

昨年のMARSでのマルチピッチクライミング講習での一コマ。

今回は1日目は剱沢キャンプ場でテント泊、2日目に剱岳アタック、3日目は剱沢から雄山まで縦走して龍王岳の東尾根を登るという、縦走・バリエーション・岩登りも全部やっちゃおうという詰め込みプランです。

アクセスは扇沢からアルペンルートを乗り継いで室堂へ。電気バスで前に座っていた子どもが中島みゆきの地上の星を熱唱していました。

一日目はまず室堂からベースキャンプの剱沢キャンプ場を目指します。室堂のバスターミナルから外に出た瞬間の景色は何度見ても圧巻。観光で訪れた人もこれを見たら一発で山に登りたくなってしまう、そんな景色が広がります。

硫黄の匂いが漂う石畳の道を雷鳥沢キャンプ場まで下り、剱御前小舎まで約500mを登り返します。この山行に向けて7,8月はジョギングや体幹トレーニングに注力していたお陰か、キツさを感じること無く休まず登り切れました。

風の流れがよく分かります。妻:「スイミーみたいだねー」

剱御前小舎ではカレーを食べている人がたくさん。お腹が空いてきましたがキャンプ場までは後少し。せんべいを頬張って進みます。目指す剱岳は雲の中でしたが、チングルマの群生が美しく目を楽しませてくれます。

ラクダのコブのような源次郎尾根の1峰(右)と2峰(左)

12時ちょうど、キャンプ場に到着しました。開放感のあるキャンプ場は平日にも関わらずそこそこテントが張られ、特に学生の姿が多く見られました。明日明後日と早出するため、管理棟から少し離れた高台にテントを張りました。

テント場でのんびり過ごしたいところですが、ひと仕事。源次郎尾根取り付きの下見に向かいました。剱沢の夏道を30分程下ると雪渓が現れます。安定していそうなところから雪渓に乗り、さらに下ること20分。大岩が目印の平蔵谷を超えた先にある尾根が源次郎尾根の取り付きです。キャンプ場に戻る400mの登り返しはくたびれましたが、雪渓へ降りるポイントや出だしのガレ場のルートを偵察できました。

テン場に戻るとすぐに夕飯の準備に取り掛かりました。今回は久しぶりに炊飯しました。無印の混ぜご飯の素で炊き込みご飯を2合作り、翌日の分のおにぎりも作ります。東北のお客様に頂いた芋煮、愛媛のお客様に頂いた玉ねぎスープで翌日のエネルギーをチャージしました。日本全国のグルメツアーのようです。
お腹もいっぱいになり翌日に備えて早々に就寝しました。

翌日は2時に起床。一人2つ用意したおにぎりを1つ食べ、スープを飲んで3時に出発。

真っ暗な雪渓を進む

下見のお陰でスムーズに取り付きに到着し、いよいよ源次郎尾根を登り始めます。初っ端から草付きの急登が続き、しばらくすると1つ目の岩場が現れます。少しハングした岩は足場が悪く、左奥に良いホールドがあり、それを掴んで思い切って足を上げる必要があります。朝イチでまだ暗い中、体も硬く緊張しましたが無事に突破。リーチの短い妻は少し苦戦しましたが、自らスリング作ったアブミを残置ハーケンに掛けて突破していました。結果この日で最も難しく感じた岩場でした。

第一の岩場真っ暗な中手探りでホールドを探す。

そこからは樹林帯の急登が続き、ひたすら木登りでぐんぐん標高を稼いでいきます。時折現れる傾斜の強い岩場では適宜ロープを出しながら一時間半ほど進むと視界が開けました。

このあたりからようやく尾根っぽさが出てくる露出感のある岩場になります。剱沢の絶景を背に岩を登る気持ちの良いパートです。

尾根の取り付きから約3時間で一峰に到着。ここまで急登続きだったので、ようやく腰を下ろして休憩をとりました。目指す二峰の奥にはついに剱岳の本峰が。どっしりとした迫力のある山容に目が釘付けでした。

一峰から二峰はクライムダウンを経て登り返します。二峰のリッジを進むと、30mの懸垂下降ポイントに到着。右には八ツ峰のギザギザとしたダイナミックな稜線がよく見えました。山に登ると次に行ってみたい場所が見つかる。キリのない遊びですね。

システムをセットして垂直の壁に身を乗り出すとなかなかの緊張感ですが、降り出したら緊張も解けて高度感を楽しみながら降りていきます。

振り返って懸垂で降りた二峰。妻:「流石に30mの懸垂は怖かった…」

ロープを回収して、残る山頂までの250mの標高差を登ります。浮石に気をつけながらガレた斜面を登ること約30分、ついに山頂に到着しました。

あいにく山頂はガスに包まれていて景色はありませんでしたが、憧れのルートから登頂できて感無量でした。
山頂は平日にも関わらず大賑わい。中でも一際元気なおっちゃんがいました。お話を聞くと剱岳登頂が今回で41回目、そしてなんと84歳だそう!登頂を目的というよりかは山頂の祠にお参りに来ているそう。今も昔も信仰の山であることに変わりありませんね。我々も今回の山行の無事を祈りました。(その後おっちゃんはずっと喋りながらもコースタイムより速く剣山荘に降りていました。すごい体力!)

1時間弱ゆっくりと休憩をとり、下山を開始しました。しばらく下るとかの有名な「カニのヨコバイ」が現れます。てっきりカニのタテバイも通るものだと楽しみにしていましたが、下山ルートでは通らないことをここで知ってちょっと残念。せっかくだからもう一度登ってタテバイ通ってみない?と妻に提案しましたが速攻で却下されました。

平蔵のコルあたりでは霧に包まれた本峰を眺めることができました。前剱のガレ場の下りは落石に神経を使い、徐々に疲れが溜まってきます。残りも慎重に下りて13時前に剣山荘に到着しました。

13:30頃にはテント場に帰還。水場で冷やしておいたコーラで乾杯しました。無事に源次郎尾根を登れた安心感と疲労感で眠くなり、そのままマットの上で横になってしばらくお昼寝。

SHUNPEI’S GEAR

ここで今回のギアの紹介を少し。バックパックはおなじみCRUXのAK37-X。レインウェアは上下山と道のUL All WeatherでインサレーションはSTATICのADRIFT VestとPatagoniaのマイクロパフ、足元の冷え対策にモンベルのダウンシューズ。シュラフはSTATICのADRIFT Ti SLEEPING BAG。マットは山と道のUL Pad+とMinimalist Padをカットしたものを組み合わせて使用。最低気温は10℃前後でしたが、冷えを感じること無く快適に寝られました。

源次郎尾根アタック時のクライミングギアは、60mシングルロープ、ハーネス、ルベルソ、アルパインヌンチャク60cm,120cm、セルフビレイ用PAS、HMSカラビナ3つと環付カラビナ2つを持っていきました。雪渓歩きにはチェーンスパイクを使用。3日目の龍王岳はここにアルパインヌンチャク+αとカム1セットが加わります。

グローブはテムレスカスタムとSWANYのTrekking Half Finger Gloveです。この指ぬきグローブが便利で、そのまま岩も登れてロープも扱えてずっとつけっぱなしでした。

その他の装備はファーストエイドキット、トイレキット、モバイルバッテリー、ヘッデン(予備1つ)、サングラス、エマージェンシーシート(アタック時に携行)、メスティン&バーナーetcです。

CHIKA’S GEAR

妻はクライミングギアを持たない代わりにテントと食料調理器具を多めに持ってもらいました。

バックパックは山と道のMINIを選択。縦走装備を担げる容量であり、かつバリエーションルートでも比較的使いやすいです。テントはTerra NovaのSolar Storm 2。雨に降られる可能性があったので、ダブルウォールに。このテントはかなりコンパクトになるので今回の荷物でもギリギリMINIに詰め込むことができました。レインウェアは山と道のUL All Weather上下、インサレーションは軽さと濡れ対策重視のチョイスでSTATICのROARとADRIFT PANTSにしました。初日剱沢までなら食料たくさん運べるだろう、ということでクッカーも料理しやすいメスティン大を選択。クライミングギアは自分のハーネスとATC、PAS、スリング240を1本だけ持ちました。

目が覚めてもまだ15時前で夕飯には少し早かったので、テント場に転がっている大岩で翌日の龍王岳に備えてカムセットの練習をしたりして過ごしました。
夕飯は袋ラーメンに乾燥野菜と大豆ミートをたっぷり入れた味噌ラーメン。疲れた体に染み渡ります。

翌朝は2時半に起床し、前夜に水を入れて戻しておいたアルファ化米にお茶漬けの素とお湯を注いでかきこみます。早出の時、サラッと食べられて水分もしっかり補給できるのでオススメです。テントを撤収して3時半前に出発しました。

まだ暗いうちに別山の稜線に出ました。最終日の3日目は剱沢キャンプ場から雄山まで縦走して、龍王岳の東尾根を登ります。午後から天気が崩れる予定なので稜線を足早に歩き、真砂岳で夜明けを迎えました。

真砂岳山頂にはパンパンに詰まったガッシャブルムを地面に転がして休憩を取る山岳部の学生が夜明けを今か今かと待っていました。薄くかかったガスが朝日でオレンジに染まり幻想的な朝でした。

真砂岳から緩やかに下り、最後のひと登りで富士ノ折立へ。

富士ノ折立から振り返ると、剱沢からは威風堂々だった剱岳もずいぶん小さく見えます。雄山に到着すると丁度山頂神社のスタッフの方々がラジオ体操を始めるところだったのお邪魔しました。すでに3時間歩いてきて体はしっかりと温まっていましたが、3000mの頂で朝日を浴びながらするラジオ体操は格別です。

行動食を食べながらこれから行く龍王岳の尾根を観察。山頂に突き上げる岩尾根が格好良いです。

一ノ越で準備を整えて岩場の基部に向かいます。登り始めてすぐのあたりでロープを出しました。その後は登りやすいところ選びつつどんどん進んでいるといつの間にか山頂直下の最後の岩場に。ハイマツ沿いに進めば容易に通過できますが、せっかくカムも持ってきたのでロープを出して正面突破しました。

そこからしばらくハイマツの中を進むと龍王岳の山頂に出ました。思っていたよりあっさり。厚い雲が近づいていたのでそそくさと一ノ越に戻りました。お昼時の一ノ越は大賑わい。これから五色ヶ原方面に縦走しそうな重装備の人、日帰りで雄山を目指す登山者、黒部方面の景色をバックにポーズを決める観光客。多様な人がごちゃまぜでなんだか面白かったです。

石畳の道を室堂へ向かう途中に雨に降られずぶ濡れに。室堂を堪能する間もなく、バスターミナルで押し寿司を買って帰路につきました。

剱・立山エリアを堪能した3日間。憧れの山に思いを巡らせてじっくりと準備をして登ることで、山行中に感じることも多く、より濃厚な時間を過ごせました。「この山に登るなら、ここから登りたい」という感覚をこれからも大事にしていきたいです。

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