どっぷりと山に浸る山行がしたい…思えば2日以上山に入ったのは、昨年10月の三俣山荘の道直しで4日間北アルプスに入ったのが最後だった。日帰りや一泊二日でパッと行くのも良いが、我々の山歩きの原点は縦走だ。そこで、GWから始まる繁忙期を前に、3連休を取ることにした。
Written by Shunpei
せっかくの連休、行きたいところは山ほどあり毎度のことだが頭を悩ませる。「この時期はやっぱり奥秩父でしょ!」といいつつも、昨年は主脈を歩き、先週は鶏冠山を歩いたのでたまには違うエリアにも行きたい。大峰や台高山脈といった遠征も魅力的だが、移動に時間を取られてしまっては山に入る時間が短くなってしまう…悩んだ結果、南アルプスの深南部に決めた。
こちらは昨年歩いた奥秩父の記録。
深南部と言っても歩きたい場所は無数にあり、これまたルート取りに頭を悩ませる。なるべく歩きに時間を取りたいので、今回のルートは静岡の寸又峡温泉を起点に黒法師岳を巡る周回コースとした。地図を眺めては思いを巡らせていたルートで、じっくりとその山深さを味わうことが目的だ。おととし麻布山から黒法師岳に行った時に南東に見えていた稜線を歩くことになる。
1日目:寸又峡温泉〜沢口山〜山犬段 / 12.1km
2日目:山犬段〜蕎麦粒岳〜房子山〜バラ谷の頭〜黒法師岳〜カモシカ平 / 16.1km
3日目:カモシカ平〜黒法師岳〜二ツ山〜前黒法師岳〜寸又峡温泉 / 14.5km
合計:42.7km、累積標高約4000m


縦走当日。一日目は行動時間がそれほど長くないため、ちょっと遅めの6時前に茅野を出発した。下道を使い、富士川から中部横断自動車道に乗る。道中見える身延山地も候補の1つだったが、今回はスルーして静岡へ。静岡SAで高速を降りるとすぐに山深くなり、細い山道を走ること1時間程で寸又峡温泉に到着した。

駐車場から登山口まではしばらく温泉街を歩く。寸又峡温泉は温泉の他に、有名な観光ポットである「夢の吊り橋」があり、平日の朝ながら観光の方がチラホラ歩いていた。その中を泊まり装備の重たいザックを背負いながら歩くのは少々目立つ。水場が限られていてる今回のルートでは水を補給できるのが2日目の夕方になるため、私は5L、妻は3Lをスタートから担いだ。


温泉街の中心地を抜けると目の前に大きな尾根が見え、寸又峡の看板を通り過ぎて民家の裏手から登山が始まる。尾根に乗るまでは急斜面につけられたつづら折れの道だ。

久しぶりの縦走が嬉しくてずっとワクワクしていて、そんな時はついペースが上がりがち。宿泊の予約もなければ到着しなければならない時間もない、縛られない自由な山歩きに逸る気持ちを押えて、ゆっくりと登っていく。蒸し暑くてすぐに汗が吹き出し始めるが、程なくして尾根に上がると気持ちの良い風が吹いていた。


尾根に上がってからは緩やかな登りがしばらく続く快適な道で、ヤマイワカガミが登山道の両脇から目を楽しませてくれた。まだ歩き始めて1時間程だが、「良い山だねぇ〜」と呟きながら、”いい山”の基準って何?という話をした。もちろんその時々によるが、今の気分では「心地の良い山」が良い山という意見で一致した。日差しの柔らかさ、風の心地よさ、新緑と春が入り混じった森、鳥の囀り、道の斜度、全てが求めていたものにマッチしていた。今回の山行は、そういった山の良いところを探しながら歩こうと決めた。


1つ目のピークの沢口山頂上に設けられたベンチで、大無間周辺の山々を眺めながら休憩した。グミを食べようとしたら真後ろに大きな鷲が現れた。音もなく近寄ってくる様はまさにハンター。不意打ちで振り返ってしまったようで慌てて飛び去っていった。

一日目・二日目に歩く登山道は「川根トレイル」の一部にもなっている。川根トレイルは、川根本町に点在する集落をトレイルでつなぎ、最終的には町内全域を結ぶロングトレイルを整備する取り組みだ。所々にそのトレイルを示す目印が見られる。
川根トレイル – 川根本町ホームページ

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沢口山から先もひたすら緩やかな快適なトレイルが続く。以前水窪側から黒法師岳に入った際にも沢山生えていたヒメシャラの木が目立つようになってきた。樹皮はツルツルスベスベ、触るとひんやりして気持ちが良い木だ。


ウツナシ峠からひと登りすると天水というピークが現れる。山頂はアカヤシオが咲き誇り、春爛漫といった様子。北側がひらけていて明後日歩く山の連なりを見ることができた。


天水から先は細尾根やザレた斜面がありこれまでとは少し雰囲気が異なった。西丹沢を思わせるような道を歩き、ゆるやかな板取山を超えると突然人工物が現れた。ここはホーキ薙と呼ばれる大崩壊地で、治山工事が施された山肌は大迫力だ。


ホーキ薙から八丁段を超え程なくして林道に合流し、16時前に山犬段に到着した。夜から明日午前にかけては雨予報なので、今夜はしっかりと雨風をしのげる山犬段休憩舎にお世話になった。この先に300名山の高塚山があり、時期によってはバスで犬山段まで来れるそう。高塚山はもちろん、ここから寸又峡温泉方面へ歩いて下山後に温泉街を観光するのもオススメだ。


中は広く、驚くほど綺麗だった。ひとしきり小屋内を探検して、温かいコーヒーを淹れてホッと一息つきながら日記を書く。一日目にして残しておきたいことがたくさんだ。夕ご飯は春雨丼とチゲスープとチーズでしっかりと栄養を摂った。小屋は我々だけで、広い板の間で入念にストレッチをして就寝した。
2日目は3:30に起床した。昨夜は獣の足音で何度か目覚めたものの、立派な小屋のお陰でしっかりと睡眠を取ることができた。屋根を打つ雨音が強く、「出発までに止んでほしいなぁ…」と考えながら朝ごはんのコッペパンをコーヒーで流し込んだ。4:30頃、トイレで一度外に出ると雨は霧雨に変わっていたので出発を決めた。

雨具を着込んで小屋脇の登山道から蕎麦粒岳方面に歩き始めた。朝イチには丁度よい緩やかな道を上っていくとすぐに山頂に着いた。

その先、三ツ合山を過ぎたあたりから雨風が強くなってきた。ここから先は細尾根や急なアップダウンが連続する区間だ。気温は5℃と肌寒く、激しいアップダウンの度に通るコルでは風が吹き抜け、横殴りの雨に打たれた。


冷たい雨風に打たれ続けて体の芯から冷えを感じ始めたので、風の遮れる場所でしっかりとエネルギーを補給した。千石平あたりから笹薮が姿を表し始める。


鋸岳の先のコルあたりは綺麗な広葉樹林が広がっていた。その頃には雨は止み、時折ガスの切れ目から太陽が見える様になってきた。肌寒い時期の必須アイテムであるアルファハラマキを忘れ、お腹が冷えて少し痛くなっていたので、余計に日差しの暖かさが身に染みてありがたかった。ここまでは悪いコンディションだったが、そのおかげで霧が晴れた時の感動が増した。良い天気だけではない、刻々と状況が変化することに対応していくのも縦走の面白さだ。
コルからしばらく登ると視界が開け、霧が晴れると同時に笹の稜線に飛び出した。


房小山まで来るとすっかり青空が広がり、気持ちの良い笹の草原歩きとなった。明確なトレースは無く、あるのは鹿が駆け回ったであろう踏み跡と、時折腰以上の高さになる笹薮。ガサガサと笹を漕ぎながら歩くと、深南部にやってきたという実感が湧いてくる。


バラ谷の頭に近づくと一層笹が背丈を増す。時折倒木が隠れていたりするので躓かないよう慎重に歩かなければならない。途中、樹皮を鹿に食べられた木がそこら中にあり痛々しく感じた。足元もよく見ると鹿のフンだらけだ。


笹の海を右往左往して、12時にバラ谷の頭に到着した。バラ谷の頭から見える黒法師岳、丸盆岳、不動岳の並びと緩やかな稜線はいつ見ても気持ちの良い景色だ。


笹に寝転び、ささみプロテインバーを食べて一休みした。


休憩もそこそこに再び歩き始める。今日の最大のミッションである水の確保が待っているのだ。バラ谷の頭からは笹が覆いかぶさった急斜面を100mほど下りて、コルから沢沿いを更に下る。笹の急斜面はチェーンスパイクがあるとしっかりグリップして歩きやすい。さっきまで雨が降っていたので水の心配は無く、案の定水場はジャブジャブと冷たい水が出ていた。

水をしっかり補給しずっしりとしたバックパックを背負って黒法師岳へと向かう。


黒法師岳の特徴は、どこから見ても直角三角形の定規を当てて書いたような綺麗な三角形だ。つまりは傾斜がきつく、かろうじてある道はつづら折れなどあるはずもなくほぼ直登。すぐにふくらはぎがパンパンになる。

急登を終え、黒法師岳と丸盆岳との分岐点で今日は丸盆岳方面に向かう。崩落した斜面の縁を慎重に下り、また笹の中へと入っていく。このあたりから疲労はピークに達して私も妻も口数が少なくなった。ゆっくりと一時間ほど歩いて広い笹原のカモシカ平に到着した。

カモシカ平、なんて素敵な名前だろうか。まさに笹の別天地と言える風景が広がってる。時刻は15時過ぎ、今日はここまでとした。余裕があれば丸盆岳のピストンも考えていたが、又今度来る時にとっておこうと言い訳をして、濡れた装備を広げて乾かして、マットを広げてしばし昼寝をした。


夕方近くなると流石に寒くなってきて、いそいそと夕食を作り始めた。今晩はマルタイの醤油ラーメン。ミネラルを取れるようわかめをたくさん入れて、二玉食べて大満足だ。夜は星と静岡の街の明かりが煌々と輝いていた。


翌朝は0℃前後まで冷え込んだ。今回の縦走の寝具はENLIGHTENED EQUIPMENTの10℃対応のダウンキルトとSTATICのADRIFT Ti SLEEPING BAGの組み合わせ。足が寒くて何度か起きたが概ねよく眠れた。4:00に起床してアルファ化米をスープで流し込み5:30に出発した。


出発する頃はあたりはまだガスの中。昨日下ってきた黒法師岳からの道を登り返していく。笹の斜面が大きく抉れたあたりからガスが晴れてきた。

カモシカ平から1時間程で黒法師岳の山頂に到着した。コメツガと笹に覆われた山頂は、以前来た時は薄暗く地味だなぁという感想だったが、この日は木々の間から朝日が差し込み、良い雰囲気だった。山はタイミングによって様々な表情を見せる。それを楽しむことができるのもゆっくりと山を歩く醍醐味だ。


次の二ツ山に向けての下りは例によって急斜面で濃い笹薮だ。まるで深雪をラッセルするかのように笹をかき分けながら下っていく。コルを過ぎて二ツ山に近づくと次第に笹薮が落ち着き、苔が目立つようになってきた。コメツガと苔の森は北八ヶ岳を思わせる雰囲気で、見慣れた景色に安心感を覚えた。



二ツ山を超えると再び笹の草原が広がるが、背丈は低く、深南部縦走が終盤を迎えていることを物語っていた。途中のヘリポートからは黒法師岳や一昨日歩いた山犬段に続く稜線が一望でき、「遠くまで来たなぁ」と感傷に浸った。

ヘリポートからは林道跡をしばらく進む。山犬段然り、このエリアには山奥にもかかわらずあちこちに林道が存在する。秘境のような山奥のすぐそばに人の手が入った跡があり、人々の営みの歴史を窺わせる。

そんなことを考えていると縦走最後のピーク、前黒法師岳の取り付きに着いた。標高差は約240m。縦走が終わってしまう寂しさから、いつもよりゆっくりと歩いた。根っこが縦横無尽に走る森に差し込む木漏れ日が、イワカガミの葉っぱに反射して燦然と輝いていた。

休まずじっくりと前黒法師岳を登りきり、山頂の丸太に腰を下ろして一息ついた。森が広がり眺望が全く無いピークだが、今はそれが心地良く、とても良い山だと感じた。歩いてきた過程によってその山の感じ方や自分の中での価値観が変わるのがまた面白い。これだから縦走はやめられないのだ。


最後のピークに思う存分浸って下山を開始した。標高を下げるにつれて気温が上がり、さっきは葉っぱだけだったイワカガミは花を咲かせていた。沢の音が聞こえてくると、あたりは植林された林になり徐々に生活の気配が濃くなっていく。終盤のつづら折れは落ち葉が凄く、考え事をしながら歩いていたら尻もちを着いた…

登山口近くには湯山集落の名残の石垣があった。帰ってから調べてみると、この集落は寸又峡温泉の歴史と密接な関係があることを知った。詳しくは→寸又峡温泉の歴史

無事に下山して林道をひた歩くと「夢の吊り橋」を渡ってきた観光の人とすれ違った。ボロボロ、ドロドロの我々と手ぶらで観光を楽しむ人とのギャップがなんだか可笑しかった。揺れる吊り橋を渡って寸又峡に戻り、3日間の縦走が幕を閉じた。

下山後は駐車場からすぐの翠紅苑で温泉に入った。寸又峡温泉は私の好きなアルカリ性の硫黄泉だ。トロッとしたお湯が心地よく、のんびり浸かった。入浴後のサービスの川根茶がスッキリとしていて非常に美味しかった。

川根本町の役場で川根トレイルのマップを頂き、夕ご飯はもちろん「さわやか」でげんこつハンバーグを食べ、最後まで静岡を楽しみ尽くして帰路に着いた。
久しぶりの縦走は、山の厳しさも優しさも全て受け止め、目的通りどっぷりと山に浸ることができた。日帰りで山を駆け巡るのも、岩を登るのも面白いし、じっくりと山や自然と対話するように歩くのも面白い。いろんな山の楽しみ方をこれからも追求していきたいと感じた山行だった。
使用アイテム
▽Shunpei
- CRUX | AK37-X
- STATIC | ALL ELEVATION L/S SHIRTS Men’s
- STATIC | ADRIFT VEST
- 山と道 | DW 5-Pocket Pants
- Rab | Mythic G Jacket
- 山と道 | Stretch Mesh Cap
- MIYAGEN Trail Engineering | LW セパレートドライソックス
- SWANY | Polygiene Light Glove (SPG-101)
- STATIC | ADRIFT Ti SLEEPING BAG
- NORTEC | ALP 2.0
- STATIC × OWL MILS | ATLAS
- SAYAMA works | ダスティンホルダー2G
- MIYAGEN Trail Engineering | OBSI PACK
- HydraPak | テンポプロ 400ml
▽Chika
- 山と道 | ONE
- 山と道 | UL All-weather Hoody
- 山と道 | DF Mesh Merino Sleeveless
- 山と道 | UL Shirt
- 山と道 | 5-Pocket Wide Pants
- STATIC | ROAR RELAX HOODY
- STATIC | ADRIFT PANTS
- RIDGE MOUNTAIN GEAR | Hempish Basic Cap
- TAIKO | AMITABI(アミタビ)メリノウールソックス
- Niho | ボストン LIGHT GREY × LIGHT GRAY (NH-103 COL.3)
- GRIPWELL | ラピッド・カーボン
- RIDGE MOUNTAIN GEAR | R ZIP WLT
▽共同装備



