登る山の決め方は、人から聞いた山だったり、雑誌やSNSで見た気になった景色だったりいくつかあると思いますが、我々の決め方の一つに、登った時に見えた、気になった尾根から登るという決め方があります。
2年ほど前に北岳の山頂から見た、八本歯のコルから続く池山吊尾根はいつか歩きたいと思っていたルートでした。
池山吊尾根を歩くにあたってネックなのがあるき沢橋までのアクセスです。芦安温泉を起点に考えた場合、鷹ノ住山から野呂川まで約400m標高を下げなければなりません。それはとても面倒だな…と、地図を見ていると広河原から吊尾根の途中にあるボーコン沢の頭に直接登れそうな尾根に目が留まり、ヤマレコの地図で改めて確認すると、歩いている足あとがありました。ヤマレコの、みんなの足あと機能は今回のようなルートの見当をつけるのにとても重宝します。調べてみるとこのルートは「嶺朋ルート」と呼ばれているマイナーなルートらしく、俄然興味が湧いてきました。
池山吊尾根は冬季の北岳へのルートということもあり、冬場の核心部となるボーコン沢の頭から八本歯のコル付近の下見も兼ねて一泊二日で歩いてみました。そして、北岳に登るついでにずっと気になっていた小太郎山にも寄り道することにしました。
Written by Shunpei

今回のルートは広河原をスタートし、嶺朋ルートからボーコン沢・八本歯のコルを経由して北岳に登頂し、肩の小屋でテント泊ののち小太郎山に寄り道して広河原に下山する行程です。
前日の21:30に茅野を出発し、いつも通りSEIYUで行動食を調達して芦安温泉を目指します。茅野は八ヶ岳が近いのはもちろんのこと南アルプスもアクセスが良く、下道でも1時間ちょっと走らせればバスの出る芦安温泉に到着します。バス停に最も近い駐車場は平日でしたが8割程度埋まっていました。
翌日は5:00台の始発バスに乗って広河原へ。険しい林道を走るバスに揺られること約1時間、広河原に到着しました。

準備を済ませ、6:20にスタートしました。野呂川を渡るいつもの吊り橋を渡った先で、白根御池小屋へ向かう道と分かれて大樺沢を渡る吊り橋を渡ります。吊り橋からは北岳がよく見え、一見近そうに見えますが、山が大きくてそう見えるのが南アルプス。
東屋を過ぎて右側に目を凝らすと、斜面にジグザグの道が。嶺朋ルートの取り付きに到着です。

序盤から急登が続く尾根。獣道が錯綜していたり倒木があったりしますが、細かく木にマーキングがしてあります。まだまだ平地は厳しい残暑で山でも暑い日が続いていましたが、この日は寒気が近づいており、いつもは暑い樹林帯も谷から時折ひんやりとした風が吹いていました。おかげで比較的サクサク進み、すぐに2000m付近の崩落地に出ました。

崩落地では青空が広がっていましたが、鳳凰三山の方に目をやると大きな雲が稜線を乗り越えてきていました。この日は日中、次第に霧に包まれる予報でしたが、思いの外早く雲が来そうだ、ということで短めの休憩を取り再び登り進めます。

2100mあたりから苔が目立ち始め、2200m付近で一旦平らな場所に出ます。ところどころ厄介な倒木に進路を邪魔されたり、張り巡らされている蜘蛛の巣を落ちている枝で巣をかき分けたりしながら進みます。
再び斜面は急になり、無心で登っていると朽ちかけた看板を発見しました。嶺朋ルートと書かれた看板は主張が少なめで渋い雰囲気。

2450m付近で開けた岩場に出ます。このあたりからハイマツが濃くなり始め、松ヤニでグローブをベタベタにしながら岩場を這い上がります。丁度岩場の途中で晴れ間が見え、雲海のようになっていたので岩に腰掛けて小休止。行動食の柿の種を頬張りながら計画と現状のペースを比較して概ね順調に来ていることを確認しました。

岩がゴロゴロしたゾーンが終わり、斜面をトラバースするとこの日一番の急登に差し掛かります。浮き石が多く落石に気をつけながら登り終えると、本格的に藪ゾーンに突入。
藪の始まりは広い窪地のようになっておりマークも消えるため少しわかりにくく、尾根をトラバースして途中から尾根に乗る方もいるようですが、最初から尾根に乗って上がっていくことにしました。
ぱっと見道が無いように見えますが、足元をよく観察すると踏み跡があるのでそれを頼りに登り進めます。

次第にハイマツは背丈を越え、踏み跡の上に覆いかぶさるように枝が伸びており、最早しゃがんだほうがトンネルのようになって進みやすかったりもしました。トトロに出てくる裏山みたいだ!なんて言いながら進みます。

最初は楽しい藪漕ぎですが、次第に面倒になって嫌になってきます。そんなタイミングでガレた広い場所に出ました。30分程度の丁度よい(?)藪道でした。藪の終点には嶺朋ルートの入口を示す看板が立っていました。このルートは甲府の嶺朋クラブという会が開拓した道だそうです。先人たちの努力に感謝しつつ、上りは楽しかったけど下りは大変な道だね、と言いつつ池山吊尾根との合流点のボーコン沢の頭を目指します。

11:30、スタートして5時間で嶺朋ルートを登り終えてボーコン沢の頭に到着。晴れていれば北岳バットレスがドーンと広がり、反対側には富士山が見えるはずが、あたりは真っ白。あいにくの天気に少しふてくされながら歩いていると八本歯の頭の手前で一瞬ガスが取れてバットレスが顔をのぞかせました。ガスと相まって荘厳さが増した岩壁を観察していると、壁の途中にクライマーを発見。ガスで視界がないところでいきなり晴れたら高度感が凄そうだ、、と思いながら八本歯のコルへ進みます。
ちなみにボーコンは漢字で亡魂と書くらしく、成仏できずに迷っている霊魂、幽霊、亡霊という意味を知ると少し怖い。

12:45、八本歯の頭へ到着。まさに歯のようなギザギザした岩場を進みます。2箇所のクライムダウンを経て岩場をトラバースして木製のはしごを降りるとコルに到着。雲は更に厚くなり先を急ぎます
この日はトップスにSTATICのALL ELEVATIONの長袖Tシャツを着用。ベースレイヤー感のない見た目で着用しやすく、この日は基本的にこれ一枚で行動していました。
STATIC | ALL ELEVATION L/S SHIRTS (Men’s)

コルからバットレスを横目に吊尾根分岐まで一息で登りきり、少し休憩して北岳山頂へ。14:10、北岳山頂に着くもやはりガスで真っ白。思えば2年前に二人で北岳に登ったときも真っ白でした。晴れ間を待ちつつのんびりしているとポツポツと来始めたので肩の小屋に向けてそそくさと出発しました。途中強くなる雰囲気があったのでレインウェアを着てザックを背負ってさあ出発!その瞬間に雲が一気に取れました。レインを着ると晴れる、は登山あるあるな気がします。

目の前には両俣小屋に繋がる尾根や間ノ岳、更には7月に歩いた仙塩尾根が見えて、野呂川越から仙丈に続くゆるゆるとした長い上りを目の当たりにして、やっぱり天気の良い日にリベンジしたくなりました。

15:00、肩の小屋に到着。受付を済ませ富士山が見えるサイトにテントを設営しました。雲は多少あるものの、青空が顔をのぞかせ気持ちの良い天気。売店でビールとコーラを買い、小屋前のベンチで2時間ほどのんびりしました。同じように多くの方がベンチで各々休憩しており、西日が差す頃にはブロッケンが見えてみんなで影に向かって手を降ったり写真を取ったりとひと盛り上がり。ゆっくりとした時間が流れていました。

小屋からは登ってきた嶺朋ルートの全貌が見え、地形図と照らし合わせながら平らだったところはあの辺だ、岩場のところが見える、なんて指さしながらルートを振り返りました。夕日を眺めながらご飯を食べて19時過ぎに就寝しました。

翌朝は3:30に起床。頭上には星空が広がっており、朝ご飯の用意の間隙を見てテントから顔を出しスマホで星空撮影を楽しみます。今年の夏一番の星空でした。この日はそこそこ冷え込み、手元の温度計で3℃でした。

撤収を済ませ、5:00に肩の小屋を出発。丁度日の出のタイミングで朝焼けに目を奪われ、なかなか進むことができません。遠くには雲海に浮かぶ富士山、八ヶ岳や奥秩父の山々を見ることができました。この日は目の前に見える小太郎山に寄り道して広河原に下山する予定です。

ひとしきり下り、小太郎尾根の分岐にテントをデポして小太郎山に向かいます。見た目以上にアップダウンがあり、途中樹林帯を抜けた後にハイマツをかき分けて進んだりと数字以上に歩きごたえのある道でした。最後の急坂を越えてやっと山頂か!と思いきや前小太郎山で、がっかりしながら進み6:50に小太郎山に到着しました。

小太郎山からは仙丈ヶ岳が目の前に見え、北岳もいつもと違った角度から眺められる気持ちのよいピークでした。野呂川から登ってくる西側の尾根も偵察しましたが一面ハイマツが生い茂っていて手強そう。小仙丈と仙丈に繋がる尾根も興味深い、、また登りたいルートが増えました。

小太郎山を後にして来た道を戻り、デポしたテントを回収して草すべりを下山開始。平日ながら多くの方が登ってきていました。途中八本歯のコルが見えたり御池小屋では北岳と池山吊尾根が見えたり二日目は良い天気に恵まれました。広河原に下山する頃には山頂は黒い雲に覆われ、夏山の天気の変わりやすさを改めて実感します。
下山後は白峰会館でお風呂とご飯。初めて利用したのですがご飯はボリューミーで生野菜も付いてきてなんとデザートにたっぷりの桃が乗ったヨーグルトつき。さすが山梨、、
マイナールートからの北岳、小太郎山と静かな南アルプスを堪能して、歩きもお腹も満足な山行になりました。次に北岳に来るときは冬に池山吊尾根から、と心に決めて帰路につきました。
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2024.09 北岳
1日目:広河原〜ボーコン沢の頭〜八本歯のコル〜北岳〜肩の小屋
2日目:肩の小屋〜小太郎山〜白根御池小屋〜広河原
15,6km
↑2,125m ↓2,141m
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使用アイテム一覧
- 山と道 | MINI
- STATIC | ADRIFT LINER
- 山と道 | UL Pad 15+
- STATIC | ALL ELEVATION L/S SHIRTS Men’s
- STATIC | ADRIFT HALF ZIP HOODY
- 山と道 | UL Shirt
- Shelt | Down Pants
- TAIKO | AMITABI(アミタビ)ウールパイルソックス
- 山と道 | Stretch Mesh Cap
- STATIC × OWL MILS | ATLAS
- 山と道 | Stuff Pack XL
- SAYAMA works | ダスティンホルダー2G改
- SAYAMA works | ダスティンホルダー2G
- RIDGE MOUNTAIN GEAR | R ZIP WLT
- SAYAMA works | ミニマリストウォレット
- WILDO | FOLD A CUP / ウィルドゥ フォールダーカップ
- MIYAGEN Trail Engineering | 3D WHISTLE 2g
- take a hike | DCF STUFF SACK