黒百合出張のとある一日

雑録

朝は高曇り。厨房の窓から見える空は薄暗く、天狗の鼻がいっそう寒そうにしている。

自分たちのご飯をつくるにも、自分がいた時とものの場所が変わっていて、調味料ひとつ探すのにもちょっと時間がかかる。久々に入った厨房は整頓されすっかりきれいになっていた。

小屋を降りてから2年間の間にいたスタッフが作ってきた空間。人が変わると、その場所の空気感も変わる。今の小屋の様子が、この厨房から伝わってくる。

昼過ぎからガスが湧いて、朝見えていた天狗の鼻はすっかり雲の中に隠れた。
お湯が沸きかけたやかんから、ららん、ららん、と微かに高い音が鳴る。日常では無視してしまうような音がここにいるとよく気づく。時間は普段よりもゆっくりと流れていき、ものは限られていても、豊かさは溢れている。

やがて、こと、こと、と低い音で湯がやかんの中で踊り始めた。
人一人いない静かな黒百合平。賑やかな夏を過ぎて、雪を待つ姿はなんだか物寂しい。

15時。外はガスに覆われて寒々しさが増す。
私事で落ち込んでいた気分がさらに沈む。
外界から隔離された小屋の中は静かでストーブの音が響くのみ。

間も無くして雪がちらついてきた。
今日はいっそう冷え込みそうだ。

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