2月に入り、ようやく雪が定着した八ヶ岳。
最近はお客様から雪の八ヶ岳を楽しんできたお話を聞く機会が増え、その様子を頭に浮かべてお話を聞いているうちに、我々も「久々に八ヶ岳に行きたい!」という気持ちがふつふつと湧いてきました。
茅野からであれば八ヶ岳は日帰りで行けるところもたくさんあるけれど、久しぶりにテント泊がしたいなあ・・・そういえば「雪が積もった黒百合ヒュッテに遊びに行く」という約束を、妻が小屋の勤務最終日に小屋番さんと話していたよな・・・よし、行こう。
ということで、1日休みをとって3ヶ月ぶりに黒百合ヒュッテと天狗岳に行くことにしました。
計画は1日目に渋の湯登山口〜黒百合ヒュッテ、2日目は黒百合ヒュッテ〜東天狗〜黒百合ヒュッテ〜渋の湯登山口。雪の天狗岳を登るメジャーなプランです。
Written by Shunpei & Chika

「行程短めで勝手知ったるテン場だし、せっかくならフロアレスシェルターを楽しみつつ、夜は雨が降る予報だから、いざというときに避難できるようにダブルウォールも持っていって、、」とあれこれ道具という名のロマンを詰め込み、「水を作るの面倒だな〜う〜ん3Lくらい持っていくか!おやつはこれとあれと・・・」という調子で色々とバックパックに詰め込んでいたら、久々に20kg近い大荷物に。
歩き慣れた道ということもあり、トレーニングも兼ねてあえて今回は重い荷物で山に行くことにしました。
登山口に向かう途中でべつばらドーナツを小屋へのお土産に購入。
このドーナツ、横浜に住んでいたときから噂には聞いていたが、一体どんな味なのか・・・でも今回は、お預け。バックパックにドーナツをぶら下げて行きました。
11時前に渋の湯登山口に到着。駅からは車で40分程度です。渋の湯までは市道のため、除雪されています。(峠道はところどころ凍結しているところがあるので注意)

駐車前に、渋御殿湯にて受付を済ませたら「車に乗って付いてきな!」とサンダルを履いた女将さんが雪道を小走りに駐車場まで案内してくださいました。それにしてもいつも元気ですごい。
渋の湯登山口には2〜3cm程度の締まった雪が残っていました。
登山口でアイゼンを装着し、一歩ずつ着実に足を進めていきます。
こんなに重い荷物を背負ったのは1年ぶり・・・?もちろん荷物は軽いに越したことはないが、トレーニングあっての軽量化だよなあ・・・なんてぼやきながら、ハムストリングスに感じる重量を受け止める。
しばらく斜度のある道を進むと、八方台と天狗方面の分岐に出て、そこから唐沢鉱泉との分岐まではなだらかな道を進みます。このあたりはだいたい積雪20〜30cm程度でした。

登り始めて1時間30分ほどで唐沢鉱泉への分岐に到着しました。
夏場に唐沢鉱泉から登ってきていたときは、広くうっかり別の沢に迷い込みそうになるこの分岐も、雪に埋もれてトレースの周囲に休んだ跡が少し広がっている程度で、冬になるとこんなにわかりやすい分岐になる。同じ山でも季節によって全然違う場所のよう。
この分岐でのんびり雪の景色を楽しみながらパンを食べ、残りの黒百合平までを登り進めます。黒百合〜渋の湯、唐沢鉱泉の道は雪があるときに歩くのが楽しいですよね。
夏は大きな苔むした湿った岩の上(想像するだけで滑りそう)を歩かなければならないのですが、それが全部雪で埋まっていて、気持ちよくスノーハイクを楽しめます。

13時30頃、黒百合平に到着。懐かしの黒百合ヒュッテがすっかり冬模様。石のテーブルは雪で埋まっていて、その上に木のベンチが並べてありました。積雪は50cm程度。

小屋に入り受付を見ると、軽食のメニューがオシャレポップに進化している・・・食べたくなる気持ちをぐっとこらえ、お土産を渡して受付を済ませ、そそくさとテントを建てに向かいます。
(受付には当店のショップカードも置いていただいております。)

今回の宿はLITEWAYのフロアレスシェルター「PYRAOMM DUO TARP」。風が当たらなそうな場所を求め、奥庭側の小屋の脇に設営することにしました。
数日前に降った雪がモッフモッフしている・・・。ひとしきり雪と戯れた後、せっせと床を固め、せっせとテントを張り、せっせと雪を積み、小一時間ほどで設営完了。
フロアレスシェルターは設営も数分で完了し、中に入るのに靴を脱がなくて済むし、虫の懸念もないので、秋〜冬は特にオススメです。
また、八ヶ岳のテントサイトは樹林帯の中にあることが多く風の心配が少ないので、フロアレスシェルターを使いやすいです。
(一般的なダブルウォールテントとは勝手が異なることもあるので、また別の機会にフロアレスシェルターのご紹介をしたいと思います。)
寝る準備まで整えて、思い出話をしに小屋に戻りました。

小屋はここ数年かけて行っていた改装がようやく2023年11月に終わり、すっかりきれいに、そして暖かくなりました。真冬でも宿泊の方が多い日は暖炉を炊かなくても20℃くらいになるそうです。すごい。テント設営で冷えたからだを暖炉で温めつつ、小屋で働いていた頃をぼんやり思い出します。世間からすこし離れた静かな山の中は、その分人と人との関わりが濃く、何物にも代えがたい経験です。(Chika)
この日は夜天気が荒れる予報だったこともあり、お客様は我々以外にテント泊の方が何組か。うち1組は毎年恒例の雪訓に来ていた学生でした。訓練にはいい天気かもしれない。笑
お仕事の邪魔にならないうちにテントに退散。

さて戻ってきたものの、寒いしやることもない、ということでとりあえずご飯を作ることにしました。
今夜は明星中華三昧の豆乳酸辣湯麺。このシリーズはどれも美味しいのですが、豆乳酸辣湯麺は格別。でもなかなか手に入らない・・・と思っていたらツルヤで見かけて思わず購入。サラダチキンと豆腐も一緒に投入してタンパク質も補給。一年ぶりくらいに食べたけどやっぱり美味しいです。
食後のデザートはチョコレートチーズケーキ。コーヒーといっしょにいただく。うますぎる。そして締めの柿ピー。うますぎる。行程が短い山の楽しみといえば、やっぱり食ですよね。山で食べるとなんでこんなに全部が美味しく感じるんでしょうか。

持ってきた食料をすべて食べつくすんじゃないかという勢いでしたので、時間つぶしに夜の嵐に備えて雪壁を積み直すことにしました。妻は「寒い、寝る」とのこと。もぞもぞともう一つのダブルウォールテントに去っていきました。みぞれのような雪のようなものが降り出してきたので、急いで積み上げます。
20時ごろから明け方2時頃まではみぞれと雪が混じった風がビュービュー吹き付けて、バサバサする音に何度も目が覚めました。シェルターが飛ばないか心配でしたが、風には耐えられました。樹林帯で使うには十分な耐風性です。シェルター内は結露するので、結露対策はあったほうが無難です。

4:30に起床。昨夜の嵐でほとんど寝付けず、何とか重い体を起こそうとすると、身動きが取りづらい。降った雪でシェルターの両端が潰され、狭くなったスペースで体がくの字になっていました。シェルターから外をの様子を覗くと20cm程度の降雪がありました。
シェルターからなんとか脱出し、(PYRAOMM DUO TARPは出入り口がダブルジップになっていて上からも開けられます)寝袋をもう一つのテントに移動してご飯を作るスペースを確保。寒い寒いと言いながら朝ご飯を作ります。
朝はチキンラーメン卵。CMで懐かしの音楽とともにチキンラーメンの宣伝が流れてきて、つい食べたくなってしまい購入。何年ぶりかな〜なんて思いながらいざ作ろうとしたら、買ったチキラーが家に置き去りになっていたことが発覚・・・しぶしぶ予備で持っていたアルファ米を食べることになりました。

5:50頃、冬靴がまだ修理から戻ってきていない妻をテントに残し、一人東天狗岳を目指します。今回は中山峠側のルートをピストン。
夜に降った雪は前日までのトレースを完全に消し去り、新雪に一番乗り。
樹林帯の吹き溜まりは、太もも近くまで埋まるほど積もっていました。

少し進むと雲海と雪煙が舞う稲子岳が見えてきます。朝焼けと相まってとても幻想的で、つい足が止まります。


樹林帯を抜け、天狗の鼻に続く急斜面に取り付きます。
サラサラの雪は一歩踏み出すたびに崩れ、進みは悪くなりますが、真っ白な雪面に自分の足跡をつけいていくことは、雪山ならではの楽しさです。
冬でも休日となれば多くの人が登る天狗岳において、晴れていてノートレースはかなり贅沢ではないでしょうか。


6:45頃、東天狗岳山頂に到着。風は強いものの、気温は−3℃で比較的温かく、のんびりと山頂からの景色を楽しめました。
この日は13時からお店をオープンする予定だったため、真っ白な西天狗岳に後ろ髪を引かれつつ、下山を開始します。



すっかり日も昇り明るくなった道を北八ヶ岳の山々を見下ろしながら下ります。
厳しい環境の冬ですが、所々で形成されているシュカブラや、太陽に照らされた雪面がとても美しい。寒くてしんどい思いをしてでも登りたくなる魅力が雪山はあります。

8時ごろテントに戻り、撤収。黒百合平は昨晩の嵐が嘘のように青空になっていました。
どうやら妻はずっと寝ていた模様。さむい〜と言いながらのろのろとテントの中から出てきた。各々黙々とテントを片付け黒百合ヒュッテをあとにします。
久々の黒百合ヒュッテ、吹雪の夜の心の拠り所でした。小屋が営業している安心感はありがたいですね。また近い内に遊びに来たいです。
前日拝めなかった八ヶ岳ブルーを見上げながら、緩やかにシラビソの樹林を降りていきます。昨日積もった雪が美しい。緑と白と茶色の世界に北欧のクリスマスを感じますね(実際に見たことはありません)。
そのままサクッと家に帰って、山で食べそこねたチキラーをお昼に食べて、午後からお店を開けました。
久々の八ヶ岳、またお客様と話す楽しみが増えたなあ。とホクホク思い出を振り返りながらこの文章を書いています。
皆様の八ヶ岳の思い出も、ぜひお店で聞かせてくださいね。
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2024.02 積雪期天狗岳1泊2日テント泊
渋の湯登山口〜黒百合ヒュッテ泊〜東天狗岳〜黒百合ヒュッテ〜渋の湯登山口
距離:9.5km
標高差:↑805m ↓790m
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