紅葉も見納めとなってきた11月頭のお休み。久しぶりの泊まりの山行に選ばれたのは静岡県は浜松市と川根本町の境にある「黒法師岳」でした。
お店の書棚にも置いている本「南アルプス・深南部 ~藪山讃歌 知られざるルート94選~」では、冒頭カラー写真付きで黒法師岳が紹介されています。「たおやかな笹尾根」「バラ谷の頭は深南部有数のビュースポット」など、興味が掻き立てられる言葉が並んでおり、その本を読んでからずっと行ってみたいと思っていました。
2000m前後の山が気持ち良い晩秋、樹林帯の葉っぱは落ち始め、マダニの心配も減ったタイミングで、ここぞとばかりにかねてから温めていた黒法師岳へ向かいました。
Written by Shunpei

今回は麻布山〜黒法師岳をピストン、時間があれば黒法師岳の先にある丸盆岳までという計画でゆるりと秋の深南部を楽しむことにしていました。
スタート地点である麻布山の登山口へは茅野から170km弱、4時間の道のりです。
途中、かの有名な青崩峠を迂回しつつ、南アルプス沿いを南下するように車を走らせて、8時過ぎに登山口の野鳥の森ウグイスの門に到着しました。
野鳥の森は林道沿いに散策路があるようで、登山口の手前で立派なキジの番を見ることができました。

あまりにも眠かったため30分ほど仮眠を取り、8:30に登山を開始しました。
序盤はよく整備された広い林の中を歩きます。様々な樹種が交じり合う林は秋の優しい木漏れ日と相まってスタートから最高の気分です。
時折痩せた尾根になったり広くなったり、バリエーション豊かな道が続きます。

1時間半程進むと徐々に斜面が急になり麻布山手前の崩落地に出ました。崩落地からはこれから目指す前黒法師山と奥にはバラ谷の頭が望めます。気温は10℃前後で日差しはやや強くなってきましたが、ほんのり風が吹いていたためそれほど汗もかくことなく急斜面を一気に上がっていきます。

程なくして麻布山に到着。麻布山の山頂周辺はのっぺりとした山容で、神社の跡地や崩壊した小屋がありました。更に奥には立派な東屋があったり、眺望はないですがとにかく気持ちの良い林歩きが楽しめるので野鳥観察でここまで来る人も多いのではないでしょうか。
麻布山から先に続く踏み跡の入口には「これより表示終わり ご無事で」の標識。
行動食で持参したネオバターロールを頬張り、先へ進みます。

そこからは、戸中山、前黒法師山と細かくアップダウンを繰り返します。岩に根っこが絡んだ痩せた尾根は宮ヶ瀬湖から大山へ登る道を思い出させました。基本的には尾根上をひたすら進むルート。前黒法師山を超えた先の下りで大きな尾根が分岐しており、そこが唯一迷い込みそうなポイントです。

たまに視界がひらけては顔を覗かせる光岳。その奥に聳えているはずの山々は、見えず。南アルプスの山は一つ一つが大きく、距離もあるのですぐに山の陰に隠れてしまいます。
前黒法師山の少し急な斜面を下ると広い窪地に出ました。緑の苔と黄色の葉が美しい庭園のような場所でついつい景色を見回してしまいます。落ち葉で踏み跡は消えて獣道が錯綜していますが、ルートを大きく外さないように、こまめに現在位置を確認しつつ、ところどころにある大きな倒木を避けつつ、打越峠まで標高を更に250m下げます。

12時過ぎ、標高1539mの打越峠に到着しました。8km弱歩いてスタート地点からの標高は300mちょっとしか上がっていません。次のピークのバラ谷の頭は2010m。500mほどの標高差を2km弱で、帳尻をあわせていくかのような急登が始まります。
しばらく進むと笹が出現し始めました。事前情報で笹藪があるとは知っていたのですが思っていたより遅れての登場でした。

80分程急登を登ると次第に膝が隠れるくらいの笹の道になり、バラ谷の頭に到着しました。本に書いてあるとおりの展望の良いピークで、これから先の黒法師岳から丸盆岳、不動岳と続く笹の稜線や、その奥に池口岳や光岳など南アルプス南部の山が見えました。残念ながら雲が多く富士山の眺望はお預け。更に笹原を奥に進むと日本で最も南の2000m峰であることを示す看板があり、日本で二番目に高い北岳を擁する南アルプスの端っこであることを実感します。

ひとしきり景色を堪能し、黒法師岳に向けて出発。崩落地を避けながら一度コルまで130m下ります。この下りがとにかくすごかった…60°近い傾斜かつびっしりと笹に覆われた斜面はとにかく滑ります。笹藪対策でチェーンスパイクを持っていっていましたが、横着してつけないまま突入して、2度ほど尻もちをつきました。笹が深いので止まりやすいですが、場所によっては崩落地に吸い込まれてしまう可能性があるのでチェーンスパイクは付けたほうが無難です。

急坂を下りきった先は楽園のような広い笹原の稜線でした。稜線を逸れて下ると水場があるようですが、今回は二人で8L弱を担いできたため、補給はせず先に進みました。ゆるっとしたアップダウンをこなし、黒法師岳の取り付きに到着。笹原をかき分けながら進むのはまるで雪山をラッセルしながら歩いているような感覚です。
この日は丸盆岳手前のカモシカ平まで行く予定でしたが、なんだか満足してしまった我々は「今回は黒法師岳まででいいね」と取り付き手前のちょっとしたスペースに幕営して空荷で黒法師岳の山頂を目指しました。

黒法師岳までの標高差150mほどの道は、バラ谷の頭同様こちらも笹の急斜面。先程の反省を活かしてチェーンスパイクを装着しました。圧倒的なグリップ力に感動しながらどんどん登ると、笹の背丈もどんどん高くなっていきます。中腹あたりで身長を超え、顔にバシバシと当たりながら登ります。後ろを振り返ると妻はすっかり笹の中に埋もれていました。
晩秋ということもあり笹にそれほど元気がなく、濡れてもいなかったので登りやすかったですが、時期によってはフェイスカバーやゴーグルがあっても良さそうな濃さでした。またマダニには要注意です。踏み跡自体はしっかり付いているので、見えない足元の岩や段差さえ気をつければ道自体はなんら難しいことはありません。

30分そこそこで急登をこなし、黒法師岳山頂に到着しました。山頂は笹と黒木に覆われ、地味ながらも味わい深いピークです。
ちょっとした小ネタを挟むと、黒法師岳山頂には一等三角点がありますが、そのマークが「+」ではなく「✕」になっています。理由は定かではありませんが、三角点マニアの間では有名だそう。

山頂から少し降りたところに丸盆岳方面に向かう分岐がありますが今回はここまで。この先も面白そうな稜線が広がっていて、次来るときは寸又峡温泉から周回で来たいね、と名残惜しみつつ下り始めました。
チェーンスパイクの圧倒的なグリップ力により難なく急斜面を下り、幕営地に戻ってきました。

戻る頃にはだいぶ日も傾き、薄っすらとピンク色に染まった空の方には浜松の町並みや駿河湾を望むことができました。夏になれば海からの湿気を含んだ熱気の影響でかなり蒸し暑くなるそうで、水の補給の難しさも鑑みると深南部の縦走は春もしくは10月〜11月がベストシーズンでしょうか。
次第に冷え込みはじめ、サクッとご飯を食べて19時前には就寝しました。あたりはゴォォと風が稜線にぶつかる音がしていましたが、風が避けられる窪地のため幕がバタつくこともなく快適でした。

翌日は4時半に起床しました。温度計の記録を見ると深夜1時に-2.7℃を記録。テント内は霜でバリバリに。それが温められて溶けて水滴となってポタポタ落ちてくるので、都度天井を拭きながらご飯の準備をしました。
サクッとご飯を食べて6時過ぎに出発。昨日とは打って変わって雲一つ無い快晴の空と澄んだ空気が気持ち良い。目の前の笹はオレンジ色に焼け、振り向くと朝日が顔を出していました。幻想的な光景を目に焼き付けながらバラ谷の頭までの道をゆっくりと歩きました。

再びバラ谷の頭に登り返して振り返ると黒法師岳の右横には富士山が見えました。遥か遠くには南アルプス南部の山々まで見えます。左側を見ると昨日は見えなかった御嶽山や恵那山、木曽駒ヶ岳方面もくっきり。

暫く景色を楽しんだあとは昨日来た道をひたすら戻ります。可能な限り周回ルートを組むことが多い我々ですが、往路とはまた違った道の見え方がして、あらためてピストンも悪くないな、と実感しました。特に樹種の移り変わりが面白く、黄色く染まったカエデの森の合間にはツルツルした木が群生していました。ヒメシャラという木らしく、触って感触を楽しんだり落ち葉を観察したり、バリエーション豊かな森林に癒やされながらサクサク歩きました。

12:00、登山口に戻ってきました。序盤の落ち葉を踏みながら歩くなだらかで広い森林、中盤の痩せた根っこが露出した尾根や終盤の笹の草原は、店主が山を始めた頃に足繁く通っていた丹沢を思い出させる雰囲気でした。
派手さはありませんが、どこか懐かしく少し冒険的な要素もある深南部の山歩きに、「我々はやっぱりこんな山歩きが好きだね」と言いながら帰路につきました。
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2024.11
麻布山登山口〜麻布山〜前黒法師山〜バラ谷の頭〜黒法師岳(ピストン)
22.0km
↑↓1962m
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