梅雨明け間近の7月の三連休は天気が優れず、山に行けなかったお客様が山の代わりにお店に立ち寄っていただくことが度々ありました。皆さんの立てていた山行計画のお話を聞いているうちに「北アルプスに行きたい!」という気持ちが強くなり、2日間のお休みで行ってきました。
目的は北アルプスの名だたる山々を展望することができる槍ヶ岳から伸びる西鎌尾根を歩くこと。その日は梅雨明けの初日。夏山シーズンの開幕にふさわしい素晴らしい天気の中のハイキングの模様をお届けします。
Written by Shunpei

1日目、午前中に予定をこなしたあと茅野を出発し、昼前に新穂高温泉の駐車場に到着。
茅野に移住して良かったと思う点は、日本アルプスの主要な登山口に2時間かからず到着できる点だ。もっとも、そのために移住したのだから、当たり前といえばそうなのである。
この日のバックパックはLITEWAYのURBAN PRO PACK 30L。
山と道のStuff Pack XLを取り付けてその中にはテント類を入れて、外側にはchant!の名品、FrontMeshSackを取り付けてヘルメットホルダー兼小物入れとしている。ベースウエイトは5kg、水食料込みで8kgとなった。


12時に駐車場をスタート。
この日の行程は槍平小屋まで9.6kmの道のり。
スタート直後雲から時折太陽が見え、蒸し暑くジメッとした空気が漂っていたが、間もなく土砂降りの雨が降ってきた。慌てて運休中の新穂高ロープウェイの軒先を借りてレインウェアを着込む。雨のお陰で暑さが多少和らぎ、むしろありがたく感じながら林道を歩き始めた。


立派な砂防ダムを横目に、雨を嗅ぎつけて道に出てきたウシガエルと戯れつつ林道を進むと、次第に登山道になっていく。途中いくつかの沢を横切り、滝谷出合に到着。増水時は渡ることが困難になる場所だが、事前に槍平小屋が提供してくれているライブ映像で渡れることを確認済み。平均台のような橋を渡り、そこからしばらく歩くと15時過ぎに槍平小屋に到着した。

梅雨明け間近の平日の槍平は空いていて、この日のテントは我々を含めて3張り。
川沿いの石がゴロゴロしたテン場は広々していて、選び放題の場所選びにウロウロしていると雨が再び降り始めてきてしまった。急いで場所を決めて設営を始めるも、あっという間にバケツをひっくり返したかのような大雨に。濡れながらなんとか設営し、テント内に逃げ込んで数分すると小康状態になった。



今回のテントはクロスオーバードーム2Gを選んだ。雨に降られることが分かっている山行ではあまり持っていかないのだが、この日はパーゴワークスのニンジャタープを併用。
タープの効果は絶大で、雨による浸水を防ぐことは勿論、朝起きた時点でも結露がほぼ発生せず、テント内がドライに保たれるのである。
クロスオーバードーム単体で使うと結露がウォールを伝ってフロアに落ち、朝起きたら水たまりなんてこともあるが、その心配はなかった。
地面からの水分の染み込みにさえ気をつければかなりの快適性が得られる。おまけに出入り口にちょっとした全室のような庇ができるのもかなり便利だ。
(雨の中慌てて張ったのでタープが90°違う向きになっています。ドローコードが仕込まれた辺をテント入口に合わせて張ると、トレッキングポールを固定できるベルクロがついており、ドローコードと併用して、よりバッチリ張れます。)
シェルターとタープ、付属品込みで合わせて1160gと、快適性と居住性の大幅な拡張を考えたら許容できる重さだ。強いて言うなら場所を少し取るため、混雑したテン場では張りにくい。
やれやれと一息ついて早速ご飯の準備に取り掛かる。この日は最近の定番、マルタイの棒ラーメンに乾燥野菜と大豆ミートのトッピング。スープで温まれて、何より美味しい。食後はサラミをつまみながら各々レモンサワーやコーラを飲みながらのんびりと過ごした。


テント場での防寒着はSTATICのADRIFT HALF ZIP HOODIE。140gと超軽量で、冬場は行動着として、夏場はダウンジャケット代わりに携行して年中活躍している。
寝具はこちらもまたSTATICのADRIFT LINERとSOLのエスケープヴィヴィの組み合わせ。雨が降る+槍平は15℃の予報であったため、濡れに強く軽量なこの組み合わせとした。気温は最低10℃となったが、寒さを感じず寝ることができた。翌日は3:00スタートの予定のため、18時過ぎに就寝した。
2日目は1:00に起床。朝ご飯は夜のうちに水を注いで戻しておいた尾西の白米に無印のレトルトのガパオをIN。朝(夜中)に食べるには少し刺激の強い味付けのご飯は寝ぼけた頭を叩き起こすかのよう。しっかりとご飯を平らげ、出発の準備に取り掛かる。レトルトのおかずを湯煎しているうちにある程度片付けをしておけばよいのだが、いかんせん夜中の起床のため体が動かずのろのろと準備をしながら少しづつ目を覚ましていく。

テントを撤収し2:20に出発。この日はコースタイム14時間半、距離にして24kmの長丁場。
ヘッドライトの明かりを頼りに飛騨沢を上がっていく。暗い時間のハイキングは、目の前に現れる道を淡々と処理していくようなイメージで、歩くことに集中できるためペースも早い。歩きながらの考え事も捗る。何より涼しくて快適だ。


4:00、千丈沢乗越の分岐に到着。
空が明るくなり始め、槍ヶ岳から千丈沢乗越に繋がる稜線や、大喰岳から繋がる尾根のシルエットが空に浮かび始めた。振り向けば抜戸岳や笠ヶ岳が徐々に朝日に照らされ始めていた。真っ暗で数メートル先しか見えていなかった登山道から一変して、飛騨沢のあまりに大きすぎるスケール感や夜明けの美しさに身震いした。



上を向けば荒々しい槍の稜線、足元には多様な高山植物の楽園、振り向けば朝焼けに照らされた山々。贅沢すぎる朝焼けの数分を噛み締めながら登るが、つい足を止めてしまいなかなか進まない。笠ヶ岳の左側には後光のような光の筋が走る。更に足を進めると鷲羽岳や祖父岳、その奥に大好きな薬師岳も見え、これから槍の穂先に登ればもっと見えると分かっていてもやはり足を止めて眺めてしまう。


そうこうしているうちに沢を登りきり飛騨乗越に到着。乗越手前から次第に風が強くなり、レインウェアを装着するも、お腹が冷えたのか腹痛に見舞われ一刻を争う事態になった。長い飛騨沢を登りきった先に広がる常念山脈や槍沢の絶景を楽しむ間もなく、トイレを求めて急な岩稜帯にへばり付くように整地されたテント場を抜けて槍ヶ岳山荘へ急いだ。

絶壁に立つ槍ヶ岳山荘のテント場のトイレにたどり着き、事なきを得てあらためて景色を楽しんだ。(このトイレはその後の西鎌尾根の途中まで我々の背中を見守ってくれるのであった。)
山を歩いていて、発電機の音が聞こえてくると「山小屋がもうすぐだ!」と、どことなく安心感を感じる。水も電力もすべて自給自足で賄っているその姿からまるで生き物のような、そんな感情を抱くことがある。
槍ヶ岳の肩に建てられた槍ヶ岳山荘は、標高3000mでの過酷な冬にも耐える、まるで要塞だ。

穂先には多くの人が取り付いており、少し落ち着くのを狙って小屋の一角を借りて登る準備に取り掛かる。穂先を観察していると少し東に傾いていることが見て取れた。これは「傾動」と呼ばれる隆起の仕方をしたためで、東北から中部地方を中心に、押す力が掛かる東西圧縮という現象によるものだそうだ。詳しくは山と渓谷出版の「地学ノート」を参照のこと。
ただの景色だったものが、本を読むことでその成り立ちを知ることができ、より山を深く知り好きになれる。



人が落ち着いたタイミングで穂先へアタック。途中、アルプス一万尺で知られる小槍の奥に鷲羽岳や薬師岳を見つつ、あの上で踊るのは無理だよね、と定番のツッコミを入れながら登った。ルートはしっかり過ぎるくらい整備されており、最後の梯子を登り切るとあっという間に山頂に到着。

曇り空ながらも、名だたる名峰を一望できる穂先からの景色は圧巻でしばし登頂の余韻に浸った。
そして眼下にはこれから歩く西鎌尾根が続いており、その先にある双六岳や三俣蓮華、奥には黒部五郎など、ところどころ残雪がまだら模様になった峰々が見えた。
いつかは北鎌尾根から登って祠の裏から頂きを、という決意を胸に山頂をあとにした。

穂先を下山し、これから歩く長い西鎌尾根に備えて柿の種で補給した。平日といえど梅雨明けの初日、槍ヶ岳山荘は多くの人で賑わっていた。
山荘をあとにして西鎌尾根を歩き始める。千丈乗越までの急坂を下り終えると至高の稜線歩きが始まった。とはいえ、特に序盤は切り立った尾根を挟んで行ったり来たり、東側は風がなく暑いかと思いきや西側は風が強く肌寒い。落石や滑落に気をつけながら稜線歩きを楽しんだ。谷を挟んだ対岸にはこのあと歩く弓折岳から下る道と鏡平山荘が見え、その長い行程に思わずため息が出た。

硫黄乗越のあたりから地質が変わり、赤っぽい土や伊藤新道がある湯俣川に繋がる硫黄沢、赤岳の異様な光景が広がっていた。このあたりからまた標高を上げ始め、樅沢岳に到着した。

西鎌尾根を振り返ると存在感抜群の槍ヶ岳、正面には鷲羽岳とその肩にぽつんと佇む三俣山荘。これからの下山に備えてたっぷりと絶景を堪能した。

長い尾根歩きを終え、すっかり空腹になってしまっていた。双六小屋が見えるやいなや、頭の中はご飯のことばかりだ。程なくして小屋に到着。それぞれカレーライスと五目ラーメンを注文した。ご飯のボリュームが半端ではなく、消化にエネルギーを使ってしまいこのあと眠気に悩まされることとなった。しっかりとストレッチを行い、新穂高温泉への下山を開始した。

下山といえど弓折乗越までの道のりは登り基調で、満腹かつ気温がもっとも高い時間帯だったため徐々にバテ始めてしまった。
鏡平山荘に着く頃には妻は熱中症気味だった。少し下にある沢で手ぬぐいを濡らし、首元を冷やすことで回復した。標高2000mを超えているにも関わらず、気温は25℃前後。登ってくる方もみな必死な様子だった。

小池新道は草が刈られ、とてもよく整備されており疲弊した体にはとてもありがたかった。秩父沢で水を浴びしっかりクールダウンして、林道に出た。
ここからが長い約6kmの林道歩き。少し硬い地面に疲労した足裏が悲鳴を上げる。わさび平小屋の冷やされた野菜に後ろ髪をひかれつつ柿の種を貪った。そこからは猛烈な眠気と戦いながら新穂高温泉の駐車場に到着した。
帰りは新島々の近くにあるお気に入りの「せせらぎの湯」でひとっ風呂。美肌効果のあるアルカリ性のとろっとした温泉に浸かりながら、歩いた道を思い出して夏の始まりを実感するとともに、次はどこに行こうか、と頭はすでに次の山に向かっていた。
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2024.07 槍ヶ岳 西鎌尾根
1日目:新穂高温泉〜槍平小屋
2日目:槍平小屋〜槍ヶ岳〜左俣岳〜双六小屋〜鏡平〜新穂高温泉
34.5km
↑2648m ↓2652m
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使用アイテム一覧
- LITEWAY | URBAN PRO PACK 30L (ECOPAK EPX200)
- HERITAGE | クロスオーバードーム2 <2G>
- PAAGO WORKS | NINJA TARP
- STATIC | ADRIFT LINER
- 山と道 | UL Pad 15+
- STATIC | ADRIFT HALF ZIP HOODY
- BRING | WUNDERWEAR “ONE”50/50
- STATIC × OWL MILS | ATLAS
- take a hike | DCF STUFF SACK
- RovyVon | Aurora A5(第4世代モデル)
- MIYAGEN Trail Engineering | 3D WHISTLE 2g with GLOW