【登山紀行】vol.13「蓼科から赤岳・キレットを越えて小淵沢へ、山小屋を繋いでゆく3日間」(前編)

登山紀行

「八ヶ岳全山縦走ならぬ、全小屋縦走やったら面白いんじゃない?」

今回の小屋巡り縦走の発端は、お店に遊びに来てくれた知人とのカウンター越しでの会話でした。
お店の認知度を上げるためのアイデアをわいわい話していた中で思いつきで出た一つの案に「小屋を巡りながらショップカードを置いてもらう」という宣伝活動があり、その時は「できたら良いですね〜」なんて会話で終わっていました。

4月が思いの外忙しくて縦走に行けず、5月に縦走を計画しようとしたときに、ふとその2月に交わした会話を思い出しました。「そういえばあんな話あったね」と思い立ったが吉日、6月2日に行われる開山祭の前に、八ヶ岳の小屋に挨拶まわりに行くことにしました。

Written by Chika


今回の縦走はお店の休みの都合もあり、2泊3日で歩くことにしました。
いざ計画を立ててみると、営業している小屋をすべて回るにはそこそこの距離になることが判明。しかも3日目まではほぼ稜線を歩かないプラン。これは物好きがやることだ・・・。まあ物好きには違いないのですが。

1日目は車でスズラン峠にアクセスし、そこからスタート。蓼科山頂ヒュッテまで登り蓼科山荘へ、そこから天祥寺原に降りて亀甲池を経由して双子池へ。そのまま雨池を通り、麦草ヒュッテ、白駒池を経由し青苔荘まで。
2日目は青苔荘から高見石小屋、黒百合ヒュッテまで登った後に中山峠からしらびそ小屋に降り、本沢温泉に行き、夏沢峠を経由してオーレン小屋まで。
3日目はオーレン小屋から硫黄岳に上がって稜線上を進み赤岳展望荘に行き、キレットを経由して青年小屋まで進み、観音平に下山。そのまま小淵沢駅まで歩いて、電車で茅野に帰り、翌日にバスで車を回収する計画です。

当初は南八ヶ岳から入山の予定でしたが、初日が雨の予報だったので、岩稜帯を避けるために上記のサブプランに決定。
八ヶ岳をより深く知るためにも、できるだけ歩いたことのない道を選択しました。稜線を西に東に行ったり来たり縦横無尽、改めて見てもおかしな行程に、計画を立てている時点でワクワクが止まりません。
体力と時間の都合上今回行けない小屋もあり、泣く泣く全小屋縦走は諦めましたが、それでも7割の小屋に挨拶に行く計画です。

初日の朝は雨模様でした。予報では弱い雨で、お昼には上がるようだったので、そのまま決行することに。

5:30にスズラン峠駐車場を出発し、蓼科山登山口から入山しました。
ご挨拶に行く緊張なのか、どこか浮き足立ったような気持ちで歩き出します。雨の中の森はより一層輝いて見えました。ペースは少し早めでしたが、雨が降っていたおかげてオーバーヒートせず、快調に蓼科山までの登りをこなしていきました。
予報よりも雨が上がるのが早く、樹林帯を抜ける手前で小康状態に。振り返ったら雲と雲に挟まれたアルプスとこれからゆく南八ヶ岳が見え、まるで山が縦走の始まりを歓迎しているようでした。

樹林帯を抜けて岩場をトラバースすると間もなく蓼科山頂ヒュッテがみえてきました。
大きな岩をひょいひょいっと軽快に越えて、まずは蓼科山の山頂へ。朝の雨はすっかり止んで、青空が垣間見えました。浅間方面やアルプスの山々も顔を出していました。南八ヶ岳の山々は近いようで遠い・・・。この日のピークはここ蓼科山のみ。広い山頂から360度山々を満足するまでぐるっと見渡して、蓼科山頂ヒュッテへご挨拶。

さて、この景色ともしばしのお別れ、蓼科山荘へ下っていきます。

15分ほど沢沿いの岩の道を下り、蓼科山荘に到着。軒先にはTシャツがずらーっと並んでいて、様相は山のTシャツやさん。
入口から声を掛けると、「お話聞いてましたよ〜」と小屋番さんが迎えてくれました。少しだけお邪魔してお話でも、と思っていたら、気づいたときには30分が経過。お互いの身の上話に花が咲いてしまいました。こういう時の流れがなんとも山小屋らしいです。昨年の夏に黒百合ヒュッテで過ごした日々を懐かしく思い出します。
先は長いので、またゆっくり遊びに来ます、と蓼科山荘を後にしました。

次の小屋は双子池ヒュッテ。蓼科山荘からのルートは双子山を経由するか、天祥寺原を経由するかの2通りあり、よく歩かれるのは双子山の方のようですが、我々は天祥寺原を経由するルートで行くことにしました。お店の近くに住む方から、天祥寺原の話を聞いてから一度行ってみたかった場所です。

さて、そこにたどり着くまでには沢沿いを降りていく必要があります。これがまた浮き石が多く、重い荷物を背負いながら降りるにはなかなか膝にくる。ひぃひぃ言いながら1時間ほど下ると、山々に囲まれた場所にポッカリと笹の原っぱが広がる場所に出ました。「おお、ここが天祥寺原か!」急に開けた視界にそれまでの下りの疲れも吹き飛びます。
とはいえお腹も空いたので暫しの休息。持参した鮭おにぎりを食べながら、蓼科山からの道のりを見上げます。静かで山に包まれているよう。街の灯りも遮られ、冬に星を見に来るには絶好の場所でした。

天祥寺原から双子池までは亀甲池を横切り小さな峠を一つ越えて行きます。
視界の左側に広がる明るい笹原とは対照的な右側の黒い樹林帯のコケの森。道を挟んで全く違う景色なのが面白い。亀甲池はまるで亀の甲羅のような緑色の苔の池でした。

ぐるっと双子池の湖畔をまわり、双子池ヒュッテに到着。
湖畔沿いのテントサイトにはハンモックが張れる場所もあります。池のほとりでゆっくりと過ごす時間はさぞかし気持ち良いでしょう。ゆくゆくはここでハンモックのイベントを開きたいですね。

双子池ヒュッテはお世話になった黒百合ヒュッテのオーナーさんの弟さん夫妻が経営されていることもあり、小屋の中でゆっくりとお話させていただきました。双子池ヒュッテの中はまるでお家のような明るく快適な空間が広がっていました。看板犬のハナちゃんは私の足元で丸くなっていて、昔実家で飼っていた犬と同じ甲斐犬だったこともあり一層かわいく見えました。
まだこの先も長いので、と名残惜しいところですが双子池を後にします。

ここから雨池まではしばらく林道歩き。疲れた足にちょうどよいです。林道から登山道に入り、1時間ほどゆるく登り返すと雨池に出ました。開放感のある池のほとりに腰掛けて疲れた体を休めます。眼前に見える予定の丸山は雲の中でした。

今回もってきた行動食はS5BARのエナジーガトーと自作トレイルミックス。ガトーは動物性の食材を一切使っていないのですが、しっとりとボリューミーで腹持ちよく、しかも果物の優しい甘さとナッツの香ばしさが美味しいまさに山で食べたいおやつです。
トレイルミックスはツルヤで購入した素焼きミックスナッツに好きなドライフルーツを何種類か混ぜて持っていきました。今回はレモンといちじくとレーズン。これも腹持ちよく、ビタミンも鉄分も取れてかなり重宝しました。

雨池のほとりを進み、麦草峠までは整備された木道もちらほら。人が多く来る観光地であることが垣間見えます。国道299号に出たときはまだ終わってないのに達成感に包まれていました。笑

道をわたって正面の麦草ヒュッテへご挨拶。赤い三角屋根が素敵です。これからのシーズンはとても賑わう場所ですね。そのまま国道を麦草峠方面に進み、ようやく白駒池の駐車場に到着。先月開通した299号、もといメルヘン街道。まだここを通る車は少なかったです。駐車場の遠くにはテント装備を背負った方が1名。もしや目的地は一緒かな?と思いながら白駒荘へ行きご挨拶。建て替えてまだ数年の建物はまるでホテルのよう。ご飯も豪華で一度は泊まってみたい小屋です。

そしてこの日の宿泊地、青苔荘へ。やはり先程駐車場で見かけた方が受付を済ませてテントを張っていました。我々もオーナーさんへご挨拶。
受付を済ませ、早速テントを設営します。今回の宿はSamaya2.0。お店のイベントでお借りしていましたが、ご厚意で今回の縦走でも使ってみて、ということに。初めて設営したときから作り込みの細かさに感動し、早く山で寝てみたくて仕方なかったテントです。実際に使ってみると、設営の手早さや、天井の広さ、窓の開放感、明け方の結露の無さなど、感動しっぱなしです。世の中のシングルウォールテントと比較するとやや重いですが、それでも持って行く価値は十分にあります。ゆくゆくはこのテントでアルプスを縦走したいですね。

青苔荘は白駒池のほとりということもあり、ひんやりとした空気が漂っていました。
夕日が池の周囲を彩る様子がテントサイトからよく見えます。テントの中から座って湖を眺めているといつの間にか17時を過ぎていました。

この日の夕食は豚バラ白菜鍋。前日の夜に鍋の具をカットしてメスティン大に詰めて冷凍しておきました。初日はできることなら生の食材を食べたい。締めのご飯も夜に炊いたもの。これはアルファ化米でもいいでしょ・・というところですが、やっぱりたべられるなら生のコメを・・・。笑
食後のデザートは予め麦草峠の駐車場で買っておいたビスケットチョコサンド。実はこの日お店で出しているコールドブリューを贅沢にこの縦走のために仕込んで持ってきていました。コールドブリューの爽やかな酸味とまろやかなコクがビスケットの香ばしい香りとチョコレートの甘みとよく合って最高〜。更に持ってきた甘酒のフリーズドライをお湯で溶かして飲みます。芯から身体があったまっていい感じ。
ぼんやりと外を眺めながらデザートを楽しんでいるとキジバトのお客様が来ました。どうやらテント客のご飯のおこぼれを食べているみたいで、人馴れしているようでした。
19時をまわりようやく暗くなってきたので就寝することにしました。

23時ごろから底冷えが気になり、できる限り地面との接地面を少なくするために体を横向きにしたら気づくとそのままの体勢で起床時間になっていました。ずっと下にしていた右腕になんだか違和感。笑
疲れが抜けない体を叩き起こし、朝ご飯を準備します。朝はアルファ化米にビビンバの素。さらに海鮮チゲ。食べ終わったアルファ化米のパックでスープを作ることでパックがキレイになる上、余計な洗い物を減らすことができます。荷物を削るところ、余分に楽しむところ、このバランスが軽量化の醍醐味だったりしますよね。

さて、2日目は八ヶ岳を右へ左へ行きつつオーレン小屋まで行く予定。しかもオーレン小屋までに通るピークは中山だけ。なんとも地味で長い。撤収を済ませ6時に青苔荘を後にします。朝日に照らされる白駒池が眩しい。

前日挨拶した白駒荘の横から高見石小屋へ登っていきます。この道はそこまで斜度はないものの、湿っており木道が崩れている箇所も多く、地図での見た目以上に気を遣いました。
白駒荘から40分ほどで高見石小屋に到着。ちょうど昨年黒百合ヒュッテにいたタイミングで高見石小屋からお手伝いに来てくれていた小屋番さんと久々の再会となりました。先は長いので、積もる話をすごい勢いで15分で話し終え、またオーナーさんいらっしゃるときに来るね〜と次へ進みます。

中山までも滑りやすい石の道が続き、山頂に近づくにつれて雪が残っている場所が目立つようになりました。白駒池からずっと頭を使う道で、結構消耗しました。
高見石小屋から1時間ほどで中山展望台に到着。ここから東天狗・西天狗を見ると、黒百合ヒュッテに入る前に挨拶にきたときの高揚感を思い出します。あのときは自分たちのお店を始めると決めて、色々とわからないながらも夢いっぱいでした。今ももちろん夢はいっぱいですが、あのときの初々しい気持ちと決意を忘れないようにしたいです。

そこから黒百合ヒュッテまでは勝手知ったる道。2月ぶりの黒百合ヒュッテはすっかり冬から春の装いになっていました。昨年11月に改装が終わったばかりの小屋は深い茶色のどっしりとした面構えになっていて、これからまたたくさんのお客様をここでお迎えするんだなあ、と一人感慨深くなりました。
ほうじ茶とかりんとうをいただきながら、まったり小屋番さんと近況報告。私が小屋にいた頃に体験に来ていた方にも再会でき、お元気そうにしていて嬉しかったです。

さて元気をもらったところで次の目的地しらびそ小屋へ向かいます。
中山峠から軽自動車くらいの岩が崩落して木々をなぎ倒していったという話を聞き、頭上に注意しながら(もはやそのレベルの落石にあったらどうしようもないですが)、しらびそ小屋までの急斜面を下ります。
「軽自動車の大きさはちょっと盛ってるよね」なんて話しながら歩いていると、本当に軽自動車級の岩が木々をなぎ倒して斜面が緩やかになったところの木にぶつかって止まっていました。
稲子岳方面からはクライミング中のパーティーが、盛んに声を掛け合っていたり、途中硫黄を含んでいるような泥があったり、これまでの北八ヶ岳の静かで穏やかな様子からだんだんと険しい南八ヶ岳へ変わってきていることがそこかしこに感じ取れます。

中山峠から降りること70分、しらびそ小屋に到着。みどり池の横にひっそりと佇む小屋は動物が沢山訪れることで有名です。去年挨拶に来たときは残念ながら不在だったのですが、今回はお母様にお会いすることができました。

ドアを開けて挨拶をすると、「コーヒーでも飲んでいってくださいね」と歓迎してくださいました。時間に余裕もあったのでお言葉に甘えてお茶していくことに。何十年と使われてきたであろう建具がレトロな雰囲気を醸す、こじんまりとした小屋。少し暗い小屋の中に窓から差し込む光とそこから見える景色のコントラストが素敵でした。窓際にあるカウンター席からは天狗岳がよく見えます。その窓の眼の前にある餌台にちょうど母親リスがご飯を食べに来ていました。
ババロアとコーヒーをいただきながらリスを観察する静かなゆったりとした時間。こういう生活にどうしても憧れるのは、得難いことだからなのでしょうか。近い内にまた泊まりに行くと決め、本沢温泉へ向けて出発しました。

実は本沢温泉にはまだ訪れたことがなく、しらびそ小屋から夏沢峠までは今回の縦走で初めて歩くルートでした。北八ヶ岳の中でも明るいシラビソの森の中を通る、程よく整備された静かな道で、八ヶ岳の中でも一番好きな道かもしれません。
緩やかに登っていく道のところどころに開けた水場があり、ふと目をやると遠くにカモシカが餌を食べに来ていました。初めて見るカモシカに嬉しさが爆発。カモシカはたまーにこちらをじっとみつめたと思いきや、飽きたかのようにマイペースに草を食べ続けていました。

カモシカに別れを告げ、そのまま樹林帯を緩やかに登っていくと本沢温泉と稲子湯の分岐に出ます。ここから本沢温泉までは整備された林道のような道。暫く進むと本沢温泉のキャンプ場に着きました。
川沿いの広いキャンプ場は幼少期に住んでいた道志村のキャンプ場を思わせます。平日にもかかわらず、キャンプ場は賑わっていました。
そのままキャンプ場を通り過ぎ、小屋に到着。声を掛けると、中から見覚えのある女性が。「本沢温泉で働く前に山小屋の話を聞かせてください」とお店に来てくださった方でした。ここでも嬉しい再会があって、こういった人同士のつながりがまた、山小屋に行って良かったと感じる瞬間です。
そのあとオーナーさんが出てきてくださいました。ちょうどお昼時で、スタッフ皆さんのご飯をご用意している最中でした。なんともタイミングが悪く申し訳ないと思いつつも、「お店に行きたいと思っていたんです」と優しく迎えてくださり、なんとなく面映い。ようやくお会いできて一安心です。

ここでゆっくりお昼を取って、夏沢峠経由でオーレン小屋に行く予定でしたが、体力に余裕があり、天気も良いので白砂新道を上がって根石岳を経由してオーレン小屋に降りることにしました。

ずっと気になっていた白砂新道。冬は通行止めになっているのですが、ちょうど開通したばかりだったので、この機を逃してはならないと意を決して進みます。序盤は沢沿いを進んでいき、その後は度々現れる急な尾根との格闘。ようやく樹林帯を抜けると、ザレた道をトラバースしながら最後の急登を上がります。なかなかに登りごたえのある道でしたが、変化に富んで面白く、時間と体力に余裕があればおすすめしたい道です。

(後半へ続く)

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2024.05 八ヶ岳縦走

1日目:女神茶屋登山口〜蓼科山頂ヒュッテ〜蓼科山荘〜天祥寺原〜双子池ヒュッテ〜雨池〜麦草ヒュッテ〜白駒荘〜青苔荘
2日目:青苔荘〜高見石小屋〜黒百合ヒュッテ〜しらびそ小屋〜本沢温泉〜白砂新道終わり(今回はここまで)
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